米国の高等教育と学習評価

山田礼子(同志社大学)

概要

現在、特に先進国においては「知識基盤社会」を構築すべく、社会システムの変革、高等教育や人材育成システムの変革を目指して既存のシステムを再構築し、政策も科学技術を支える高等教育や産業への進展を重点的に進めることが共通して、進展している。近年の世界の高等教育関係者、例えば、政策立案者、大学の経営者や大学関係者の間で、「高等教育への財政配分縮小」、「アカウンタビリティ」、「評価」といった用語が、常時用いられているのはこの「質保証」に大いに関係している。高等教育機関に焦点を絞れば、機関の卓越性、利便性、魅力等も世界中の人々の目にさらされるだけでなく、評価されることになる。したがって、従来は一国あるいは一地域の特性や文化、制度、言語等の枠組みのなかで、制度設計をし、教育のコンテンツも一国の言語で提供することを考慮していたことが、「国際的通用性」を基準に進展していくことが求められるようになる。したがって、現在多くの国々で進展している「高等教育政策」も、「国際的通用性」というキーワードで括られる共通性が散見される。
本発表では、米国の近年の高等教育政策の特徴と世界の高等教育政策の共通性を提示し、さらには学習成果志向政策のたかまりのなかで、米国における学習成果を巡る状況について紹介する。
高等教育機関は自らのステイクホルダーに対して機関そのものの質やその使命の質、そして機関が生み出す成果の質が高いことを示すために様々な努力を重ねてきた。これは、高等教育機関が、資金を拠出したり納付金を支払ったりするに相応しい価値を持っていることを示すために続けられてきた努力であり、アカウンタビリティへの対応ともいえるものである。この努力において、高等教育機関のほとんどとは言わないまでも、その多くが、何らかの形で行われるアクレディテーションと関わりを持っている。このアクレディテーションというものは、多くの場合中央政府レベルで管理されているものだが、そうではなく分権化された形で実施されている場合もある。米国のアクレディテーションはこの分権化された形で実施されているが、近年のアカウンタビリティへの対応と学習成果志向政策の高まりのなかで、多くの地域アクレディテーション機関は、各高等教育機関に学習成果に関するエビデンスデータとして提示することをも求めるようになってきている。そうした状況の変化のなかで、近年は様々な学習成果の測定の開発や実践そして研究の蓄積がみられる。
そうした学習成果志向政策の起点のひとつに2006年に公表された「スペリングスレポート」がある。本発表では、スペリングスレポートのもたらしたインパクトについても検討し、オバマ政権時代に高等教育機関が参加することが求められたカレッジスコアカードの創設についてもスペリングスレポートとの関係から分析を行う。このように学習成果をキーワードに管理が進捗する一方で、単位制度を基本としないコンピテンシーを基盤とする教育といった方向も市場化の一環として導入されつつある。こうした動向についても本発表では提示する。

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