「講演:エリート教育の選択」

講演:「エリート教育の選択」  演者: 秦由美子 (関西外国語大学・教授)
日時:2019年4月6日(土)13:00~17:00
場所:赤坂インタシティーコンファレンスセンター
主催:日英欧研究学術交流センター(RIJUE)、株式会社インターグループ

 幕末には英国における最初の日本人留学生と言われている伊藤博文、井上馨ら5名の長州藩士がロンドン大学に留学し、明治維新における近代国家の礎を築いた。それから150年が経過した現在、国際社会の中で日本の将来を担う人材を育てるための一環として、優れた人間教育を行っていると考えられるイギリスの教育やイギリスの大学への理解の醸成に資すべく、本セミナーが開催された。
 果たして、グローバル化の進む中、ITの進歩、AIの進化の劇的な社会変化が引き起こされているこの時代に生き抜くために必要な人間としての素養とは何なのであろうか。AIでは代替できない人間教育について秦由美子氏(関西外国語大学教授)は語った。

 第一部は、関西外国語大学教授の秦由美子氏が「パブリック・スクールと日本の名門校」についての講演が実施された。内容は、1.日本の大学を巡る概況(イギリスとの比較)、2.イギリスの教育、3.パブリック・スクールと日本の名門校についてであり、それらの講演後、最後に4.日本の教育への示唆を述べた。
 第二部のパネルディスカッションでは日本人のオックスフォード大学生4名が英国式の教育について、モデレーターのNHK報道局・国際部の長尾香里氏と活発な意見交換を実施することとなった。
 オックスフォード大学生4名とは、清泉インター中学校、高校からオックスフォード大学に進学した女子(心理学専攻)、 ロンドンのプレップ・スクールからハロウ校を経て進学した男子(テクノロジー専攻)、巣鴨中学、高校からシックスフォームを経て進学した男子(物理学専攻)、スイスでの学校を経て、イートン校から進学した男子(ロシア語・仏語専攻)である。長尾氏も、パリ、ブリュッセルの駐在経験をし、イギリスだけでなく、ヨーロッパ各国への留学の窓口を日本でもっと広げるべきだと痛感したとのことであった。
 本講演は、文部科学省を通じて、英国大使館にも情報が伝えられた。


秦由美子氏(関西外国語大学教授)の講演風景


グローバリゼーションの包含する意味
 グローバリゼーションという言葉が引用され始めたのは年代的には古く、1960年代にマクルーハン(Herbert M. McLuhan)が唱えた「グローバル・ビレッジ」の概念からと言われている。マクルーハンはグローバル・コミュニケーション・ネットワークにより世界が一つの地球として結ばれると示唆した。社会現象としてのグローバリゼーションは経済の領域から始まったとされるが、その後、1990年前後の「ボーダーレス化」、「トランスナショナル」を経て、社会学者が「グローバリゼーション」という言辞を使用し始め、2001年9月11日の同時多発テロ以降、更に「グローバリゼーション」という言葉が頻繁に使用されるようになったように思われる。
 コミュニケーション技術の進歩、情報テクノロジーや輸送手段の目覚ましい発達が「時間と空間の圧縮」し(Harvey 1989)、多くの国が国際コミュニケーション・ネットワークにアクセスできるようになり、「船あるいは飛行機で」求めた学びも自国の自室に居りながら手にすることができるようになった。  世界経済の統合はグローバリゼーションを促進しているが、トムリンソンによれば、グローバリゼーションは、政治的、社会的、文化的、経済的要因の結合によって引き起こされているという。グローバリゼーションは、「経済、政治、社会、対人関係、テクノロジー、環境、文化」といった領域を複合的に結合(複合的結合性)しているのである。
 しかし、メリットのみではない。その一方で、グローバリゼーションの進展の結果、世界が直面する問題がローカルな我々の生活にも直接かつ重大な帰結をもたらすという事態をも引き起こした。つまり、グローバリゼーションは民主化プロセスを可能にもするが、他方で不平等の拡大も誘発し、グローバル・ジャスティスを求める側からは、その手段としてテロリズムが利用されたのであった。
 大野は、グローバリゼーションには「中心国がすでに優位に立つ分野に自分が設定するルールで他国を参加させ、その優位性を拡大再生産するという側面があることも否定できない」(大野 2000,iii)と述べていることも一見識である。(秦由美子)

 

2019年04月16日